新型コロナ抗原検査の仕組みとは?検査キットメーカー元社員が解説

医師の画像 検査

新型コロナウイルス感染症の流行により、「抗原検査」という言葉をよく耳にするようになりました。

自宅で手軽に検査できるキットも普及しましたが、その検査はどのような仕組みで成り立っているのか、気になる方もいるのではないでしょうか?
また、よく比較されるPCR検査とは何が違うのでしょうか?

今回は、身近なようで意外と知られていない抗原検査の基礎知識について、解説していきます。

1.抗原検査の仕組み

抗原検査は、ウイルスの特定の部分を検出することで感染の有無を調べる方法です。
その「特定の部分」こそが「抗原」と呼ばれます。

新型コロナウイルスの場合、ウイルスの表面にあるトゲトゲしたタンパク質などが抗原にあたります。
抗原検査は、このウイルスの構成要素そのものを直接検出する方法です。

多くの検査キットでは、「イムノクロマトグラフィー法」という原理が用いられています。
これは、特定の物質にだけ反応する「抗体」を利用した、非常に優れた検出技術です。

検査キットの基本的な仕組みは、以下の流れで進みます。

①検体採取
鼻の奥の粘液や唾液など、ウイルスが含まれている可能性のある検体を採取します。
  ↓
②試薬との混合
採取した検体を、色付き粒子に「抗体」(ウイルスに結合するタンパク)が結合した試薬と混ぜ合わせます。
  ↓
③キットへの滴下と展開
混合液を検査キットに垂らすと、液体がキットの奥へと染み込んでいきます。
もし検体内にウイルスの抗原があれば、②の色付き粒子と結合したまま移動します。
 ↓
④判定
そして、判定ライン部分に固定された別の抗体が、抗原をとらえます。
その結果、粒子がその場に集まって、目に見える色の付いた線として現れます。
この線が出れば、「陽性」と判断されます。

鼻の奥に綿棒を入れられて、痛い思いをしたことがある方もいるのではないでしょうか?
これは、①の工程を行っていたのです。

このように、抗原と抗体の特異的な結合反応を利用することで、特別な分析機器がなくても短時間で結果を知ることが可能です。

2.抗原検査とPCR検査の違いとは?

抗原検査としばしば比較されるのが、コロナ禍のニュースなどでよく耳にした「PCR検査」です。
どちらも現在ウイルスに感染しているかを調べるための検査ですが、その目的と性能には大きな違いがあります。

両者の違いを、検出するものや検査時間などの観点から下表で比較しました。

項目抗原検査PCR検査
検出対象ウイルスのタンパク質(抗原)ウイルスの遺伝子(RNA)
精度(感度)
検査時間短い:約15~30分長い:数時間以上
主な特徴迅速・簡便微量のウイルスも検出可能

最大の違いは「検出対象」と「精度(感度)」です。
抗原検査がウイルスの「部品(タンパク質)」そのものを探すのに対し、PCR検査はウイルスの「設計図(遺伝子)」を探します。
さらにPCR検査は、その設計図を何百万倍にもコピーして増やす工程を挟むため、ごくわずかなウイルスしか存在しない感染初期でも検出できるほどの高い感度を誇ります。

一方、抗原検査は遺伝子を増やす工程がないため、体内に一定量以上のウイルスが存在しないと陽性反応が出ません。
このため、PCR検査に比べて感度が低いとされており、感染から時間が経たないと検出が難しいです。

3.抗原検査の賢い使い方とは?

では、私たちは抗原検査をどのように活用すればよいのでしょうか?
それは、その特性を理解し、目的に応じて使い分けることです。

例えば、発熱や喉の痛みといった症状がはっきりと出ている場合、体内のウイルス量は増えている可能性が高いため、抗原検査でも陽性反応が出やすくなります。
このような状況で迅速に感染の可能性を確認する手段として、抗原検査は非常に有効です。

一方で、症状がない場合や、感染者との接触直後でウイルス量が少ないと想定される場合には、抗原検査で陰性であっても感染を否定することはできません。
症状があるのに陰性だった場合なども含め、不安な場合はPCR検査を受けたり、医療機関に相談したりするなど、結果を過信せずに慎重に行動することが求められます。

抗原検査は、私たちの生活において感染対策を講じる上での強力なツールの一つです。
その仕組みを正しく理解し、状況に応じて賢く活用していきましょう。

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