製造現場では、人手不足や品質維持への対応ニーズが高まっており、ロボットの活用が進んでいます。
主な導入背景は以下のとおりです。
製造業が直面している課題
- 少子高齢化による若手人材の不足
- 熟練工の引退に伴う技術継承の断絶
- 働き方改革による長時間労働の是正
課題に対応するため、従来の人手に頼る生産体制から、ロボットを活用した自動化へとシフトする動きが加速しています。
製造業でロボットを導入する際の注意点6選
ロボット導入を成功させるには、事前の計画とリスク管理が欠かせません。
注意すべきポイントは以下の6つです。
- 自社の課題に合った導入目的を明確にする
- 導入費用だけでなく運用コストも試算する
- ロボットの設置スペースと作業動線を確保する
- ティーチングなどの専門知識を持つ人材を育成する
- トラブル時に備えて保守・メンテナンス体制を整える
- 事故を防ぐための安全対策を施す
これらのポイントを1つずつ確認し、自社に最適な導入計画を立てていきましょう。
自社の課題に合った導入目的を明確にする
導入目的を明確にせず「なんとなく自動化したい」という理由で導入すると、現場のニーズと合わず、稼働率が上がらないケースがあります。
「重量物の運搬を自動化して腰痛リスクを減らす」「検査工程のバラつきをなくして品質を安定させる」など、具体的な目的を設定すると、選ぶべきロボットの種類やスペックが決まります。
目的が定まれば、費用対効果の算出も正確になるでしょう。
導入費用だけでなく運用コストも試算する
ロボット本体や周辺機器の初期費用に目がいきがちですが、稼働後にかかる費用も予算に組み込む必要があります。
主なコストの内訳は以下のとおりです。
| 種類 | 主な費用項目 |
| 初期費用 | ロボット本体・安全柵・設置工事費・システム構築費 |
| 運用費用 | 電気代・定期点検費・消耗部品代・ソフトウェア更新費 |
| 人件費 | ティーチング担当者・オペレーターの教育費 |
見積もりを取る際は、メーカーに対し、年間のメンテナンス頻度や消耗品の交換サイクルを確認しましょう。
長期的な視点でトータルコストを把握し、投資回収計画を立てることが必要です。
ロボットの設置スペースと作業動線を確保する
ロボットはアームが動く範囲が広いため、本体サイズ以上の空間が必要です。
また、前後の工程で人が作業する場合、人の動きを妨げないレイアウトにしなくてはなりません。
特に確認すべき項目は以下のとおりです。
- アームが最大まで伸びた時の可動範囲
- 安全柵を設置するための床面積
- 原材料の搬入と完成品の搬出ルート
- メンテナンス時に人が立ち入る作業スペース
これらを事前に図面上でシミュレーションし、現場でテープを貼って確認すると手戻りを防げます。
既存の設備と干渉しないか、配線や配管のルートが確保できるかも含めて、詳細なレイアウト検討を進めていきます。
ティーチングなどの専門知識を持つ人材を育成する
ロボットは、購入して電源を入れればすぐに動くわけではありません。
どのような動きをするかプログラムする「ティーチング」という作業が必要です。
また、日常の操作やトラブル対応を行うオペレーターも配置しなくてはなりません。
労働安全衛生法では、ティーチングや検査業務に就く人に対し、「特別教育」の受講を義務付けています。
外部の講習会に参加させたり、メーカーのトレーニングスクールを活用したりして、社内で扱える人材を育ててください。
社内に詳しい人材がいると、トラブル時の復旧が早くなり、稼働率の低下を防げます。
トラブル時に備えて保守・メンテナンス体制を整える
ロボットが故障してラインが止まると、生産計画に遅れが生じ、納期遅延などの損害につながります。
万が一の停止時間を最小限に抑える準備が必要です。
体制づくりのポイントは以下のとおりです。
- メーカーのサポート窓口と対応時間の確認
- センサーやケーブルなど予備部品の確保
- エラーコードごとの対応マニュアル作成
- 定期的なバックアップデータの保存
導入初期はメーカーのサポートに頼ることが多いですが、徐々に社内で一次対応ができるようにノウハウを蓄積しましょう。
夜間や休日に稼働する場合は、緊急時の連絡網も整備しておくと安心です。
事故を防ぐための安全対策を施す
ロボットは大きな力で高速動作するため、接触すると重大な事故につながる恐れがあります。
リスクアセスメントを実施し、危険源を特定した上で対策を講じましょう。
主な安全対策は以下のとおりです。
| 対策区分 | 具体的な内容 |
| 隔離 | 安全柵を設置し、人とロボットの作業エリアを分ける |
| 停止制御 | エリアセンサーやライトカーテンで人の侵入を検知し、停止させる |
| 運用管理 | 「作業中」の表示板掲示や、立入禁止エリアの明示を徹底する |
人と同じスペースで稼働できる「協働ロボット」の場合でも、ワークが鋭利な場合などはリスクが残るため、適切な保護具の着用や速度制限などの対策を怠ってはいけません。
製造業でロボットを導入する流れ4ステップ
ロボット導入は、計画から運用開始まで多くの工程を経る必要があります。
一般的な導入の流れは以下の4ステップです。
- ①自動化したい工程の洗い出しと要件定義
- ②ロボットメーカーの選定
- ③ロボットの設計と設置
- ④運用開始前の安全教育と試運転
各ステップでやるべきことを理解し、スムーズな導入を目指しましょう。
①自動化したい工程の洗い出しと要件定義
まずは現状の課題を可視化し、どの作業をロボットに任せるか決めます。
全ての工程を自動化しようとするとコストが膨大になるため、費用対効果が高い工程に絞り込みましょう。
例えば、自動車部品の組立ラインにおいて、「重量20kgの部品をパレットからコンベアに移載する工程」など、人が行うには負担が大きい作業を特定します。
対象工程が決まったら、求めるスペックを数値化してください。
「1分間に10個処理する」「位置決め精度は±0.1mm以内」といった具体的な要件定義書を作成します。
この要件が曖昧だと、後のメーカー選定でミスマッチが起きる原因になります。
②ロボットメーカーの選定
要件定義ができたら、次はパートナーとなるロボットメーカーを選定します。
ロボット本体の性能だけでなく、前後の搬送装置や安全柵を含めたシステム全体を構築できるパートナー選びが必要です。
選定時に比較すべき項目は以下のとおりです。
| 項目 | 確認するポイント |
| 得意分野 | 溶接・搬送・組立など、自社の目的と合致するか |
| 提案力 | 現場の課題に対し具体的な改善案を出せるか |
| サポート | 故障時の対応や部品供給のスピード |
| コスト | 初期費用だけでなく、運用費用も含めた総額 |
複数の会社から相見積もりを取り、提案内容とコストのバランスを見て判断しましょう。
③ロボットの設計と設置
パートナーが決まったら、詳細なシステム設計と設置工事に進みます。
ここでは、ロボットの手となる「ハンド(エンドエフェクタ)」の設計が特に必要です。
扱うワークの形状や材質に合わせて、吸着ハンドやグリッパーをカスタマイズします。
設計時に考慮すべきポイントは以下のとおりです。
- ワークを傷つけない把持力の設定
- サイクルタイムを満たす動作速度の計算
- 周辺設備と干渉しないレイアウト設計
設計が完了したら、工場内で設置工事を行います。
このとき、電気配線やエアー配管の接続だけでなく、ロボットを床に固定するアンカー工事も実施します。
設置後は、アームが周囲の柱や設備に衝突しないか、ゆっくりとした動作で確認してください。
④運用開始前の安全教育と試運転
最後に、本格稼働に向けた安全教育と試運転を実施します。
ハードウェアが設置できても、すぐに生産を開始できるわけではありません。
労働安全衛生法に基づき、ロボットのティーチングや検査業務を行う従業員に対して「特別教育」を実施する義務があります。
また、教育と並行してリスクアセスメントを実施し、残留リスクがないか確認してください。
試運転では、実際のワークを流して品質やサイクルタイムを検証します。
初期不良やプログラムのバグを出し切り、安定稼働が確認できて初めて、量産ラインとしての運用がスタートします。
製造業のロボット活用についてよくある質問
ここでは、よくある4つの質問に回答します。
事前に不安を解消し、スムーズな導入準備を進めていきましょう。
ロボットの操作に公的な免許は必要?
自動車の運転免許のような公的な資格は不要ですが、労働安全衛生法に基づく「特別教育」の受講が義務付けられています。
対象となるのは、ロボットに動きを教える「ティーチング」を行う作業者と、保守や点検を行う検査作業者です。
これらの業務に就く従業員は、学科と実技を含むカリキュラムを受講しなくてはなりません。
特別教育は、社内のインストラクターが実施するか、ロボットメーカーや教習機関が開催する外部講習を利用して受講します。
無資格で作業させると法令違反になるため、必ず教育を実施しましょう。
ロボットの導入に利用できる補助金はある?
生産性向上や人手不足解消を目的とした設備投資は、多くの補助金制度の対象になります。
主な補助金は以下のとおりです。
| 補助金名 | 特徴・対象経費 |
| 中小企業省力化投資補助金 | 人手不足に悩む中小企業等に対して、省力化投資を支援 |
| ものづくり補助金 | サービス開発や生産プロセスの改善に必要な設備投資を支援 |
| 業務改善助成金 | 事業場内の最低賃金を引き上げ、生産性向上に資する設備投資をした場合に助成 |
これらの制度は、公募期間や要件が年度によって変わる場合があります。
利用を検討する際は、公式サイトで最新の公募要領を確認しましょう。
中古のロボットを導入する際のリスクは?
主なリスクは以下のとおりです。
- 内部の部品が摩耗しており故障率が高い
- メーカーの部品供給期間が終了している
- メーカーの保証やサポートが受けられない
中古品を選ぶ際は、価格だけで判断してはいけません。
万が一故障した際に修理対応ができる業者がいるかどうかも、購入前に確認しましょう。
協働ロボットなら安全柵なしでも設置できる?
基本的には安全柵なしで設置できますが、無条件ではありません。
例えば、ロボット自体は安全でも、先端に鋭利なカッターをもっていたり、高温のワークを運んでいたりする場合は危険です。
その場合、人が近づけないように柵を設けたり、人が近づくとセンサーで減速したりする対策が求められます。
「協働ロボット=柵が不要」と思い込まず、現場の状況に合わせて安全対策を講じることが必要です。
まとめ
製造業でのロボット導入は、人手不足の解消や品質の安定化を実現し、企業の競争力を高める可能性を秘めています。
しかし、安易な導入は期待した効果を得られないだけでなく、コスト増や思わぬ事故を招く恐れがあります。
成功させるには、事前の綿密な計画と準備が必要です。
今回解説した導入時の注意点を振り返ります。
- 自社の課題に合った導入目的を明確にする
- 導入費用だけでなく運用コストも試算する
- ロボットの設置スペースと作業動線を確保する
- ティーチングなどの専門知識を持つ人材を育成する
- トラブル時に備えて保守・メンテナンス体制を整える
- 事故を防ぐための安全対策を施す
これらを解決することで、投資対効果の高い自動化が実現できるでしょう。
